民法改正【賃貸借契約への影響】 | 誠和不動産販売株式会社
民法改正【賃貸借契約への影響】
著:金成明洋 2016年9月更新
●民法が抜本改正へ
2015年3月31日に「民法の一部を改正する法律案」が閣議決定され、同日中に通常国会へ提出されました。
民法は1896年(明治29年)に制定されていますが、それから約120年を経て初めての抜本改正となります。
今回の民法改正では、不動産取引に関する改正点も多く、その中から賃貸借契約にかかわる部分を解説します。
●黄金のルールを明文化
これまで民法やその他の法律の中に明確な規定がなく、あくまでも不動産の賃貸借契約における慣行とされてきた敷金ですが、今回の民法改正でその定義が設けられることになりました。
改正案では「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう」となっていますが、要するに「家賃などの担保」という意味です。
それと同時に、敷金の返還義務も明文化されました。賃料の未払い分や、故意・過失による損傷の修繕費用などがない限り、賃貸借契約が終了して明渡す際に原則として敷金の全額が返還されることになります。通常の使用による損耗や経年劣化などに対する修繕費用の負担義務が賃借人にないことを示したものであり、これは国土交通省による「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(1998年)や、東京都による「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」(2004年)の内容に沿ったものでもあります。
したがって、多くのケースでは実務上の取扱いが従来から変わることはなく、クリーニング費用を賃借人負担とする特約は、引き続き有効とされると思われます。
●連帯保証人の規定
民法の改正により、個人の連帯保証人については「個人根保証契約」にかかる規定が適用されることとなり、保証をする対象の「極度額」をあらかじめ書面または電磁的記録で定めなければ無効とされます。
要するに連帯保証する範囲を「◯百万円まで」などと定めなくてはなりません。保証の上限を決めておくことにより、連帯保証人が際限なく負担を求められる事態を防ぐことが目的となります。
しかし、金額を示されることでかえって連帯保証人になることを躊躇する場面が増えかねないことが懸念されます。
●賃借人による「修繕権」
民法には以前から賃貸人による「修繕義務」が規定されています。
今回の改正ではこれに加えて、賃借人の故意過失による損傷については賃貸人に修繕義務がないこと、および賃借人が自ら修繕することのできる要件が明文化されます。賃貸人が修繕の必要性を知ったにも関わらず相当の期間内に必要な修繕をしないとき、あるいは急迫の事情がある場合には、賃借人が自ら修繕できるとしたものです。
これは以前から判例などで認められていた行為であり、無過失の賃借人が負担した修繕費用は賃貸人に請求することができます。しかし、民法に明文化されることで今後は賃借人が「勝手に」修繕をするトラブルが増えることや、争いが複雑化することも懸念されています。修繕が本当に必要なケースなのかどうか、どの程度の修繕が必要なのかといった認識が共有されないまま、賃借人が修繕に踏み切るような事態が想定されます。それを防ぐために、賃貸借契約締結時に取決める事項が大幅に増え、かつ複雑になることもあるかも知れません。
●一部滅失などで賃料は「当然減額」に
賃貸マンションやアパートなどでこれに該当するケースは少ないと思われますが、借りた部屋の一部が滅失またはその他の事由で使うことができなくなったときは、その部分の割合に応じて賃料は「当然に減額される」という規定が民法に設けられます。ただし、その前提として「賃借人の責めに帰することができない事由」であること、つまり無過失であることが要件です。
従来は一部滅失の場合に「賃料の減額を請求することができる」とされていたのであるが、改正により、その他の事由も含めて一部の使用収益ができなくなれば「請求をしなくても当然に賃料は減額される」ことになります。しかし、具体的にどの程度の減額が適正なのか、その判断をめぐって争いが増えることも考えられます。滅失の面積判定や、その他の事由の正当性で「見解の相違」が生じることもあるでしょう。
また、残存する部分のみでは賃借した目的を達することができない場合には、賃借人が契約を解除することができる旨の規定も設けられています。
●最後に
民法を改正しようとする目的は大きく2つあります。
① 社会・経済の変化への対応を図ること
② 国民一般にわかり易いものにすることです。
民法は私達の生活に1番密接にかかわる法律です。是非とも、現在の社会・経済に即した内容で、難しい文章や言い回しでなく、馴染みやすい言葉に変わることを願っています。