配偶者居住権で相続税節税 | 誠和不動産販売株式会社
配偶者居住権で相続税節税
著:金成明洋 2020年3月更新
民法の改正により、新しく「配偶者居住権」という権利が2020年4月1日から認められるようになります。
この配偶者居住権は、遺産相続争いの防止などに強い効力を発揮すると共に、上手に活用することにより、相続税の節税が可能になります。このため、2020年4月からの相続税を取り巻く環境や対策が大幅に変わると予想されています。
今回は、新しく改正される配偶者居住権の概要についてご説明します。
1.配偶者居住権とは
以前のコラムで配偶者居住権については解説をしているので簡単に言うと、配偶者の死亡後に、引き続き同じ持ち家に住み続けられる権利のことです。
従来、複数の相続人がいる場合で、持ち家の相続税評価額が高額の場合、生存配偶者は持ち家の相続を諦めなければいけないケースが多く存在しました。これは、高齢の生存配偶者を住み慣れた家から追い出すことに繋がるため、その対策として配偶者居住権が制定されました。
2.長期配偶者居住権で二次相続を節税
長期配偶者居住権を設定することで二次相続の節税に繋がります。
節税になる重要なポイントは、設定した配偶者が死亡すれば長期配偶者居住権は消滅するということです。
相続時に長期配偶者居住権と建物所有権に分かれた権利が、配偶者が死亡し長期配偶者居住権が消滅することで、建物所有権の価値が元に戻ります。
つまり、配偶者の死亡により建物所有権の価値が増加することになります。
しかし、この配偶者の死亡による建物所有権の増加には相続税は課税されません。ここが相続税節税の重要なポイントです。
配偶者が死亡すれば長期配偶者居住権は消滅するということです。
※相続税基本通達
民法第1036条((使用貸借及び賃貸借の規定の準用))において準用する同法第597条第1項及び第3項((期間満了及び借主の死亡による使用貸借の終了))並びに第616条の2((賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了))の規定により配偶者居住権が消滅した場合には、上記の取り扱いはないことに留意する。
2-1.どれくらい節税になるのか
「長期配偶者居住権を利用しない」従来の相続税の計算と、「長期配偶者居住権を利用した」相続税の計算を比較してみます。
【前提条件】
被相続人:夫
相続人:妻、子
相続財産:長期配偶者居住権部分 6,000万円、土地建物の所有権 4,000万円 合計:1億円
長期配偶者居住権を利用しないケース
一次相続では配偶者控除を適用するため、妻が自宅の全てを相続します。
二次相続では、妻から子が自宅を相続します。
一次相続 配偶者控除の適用により、相続税の課税なし
二次相続 1億円(自宅の相続税評価額)- 3,600万円(基礎控除額)= 6,400万円
6,400万円 × 30%(相続税率)- 700万円(控除額)= 1,220万円
配偶者居住権を利用しないと、相続税合計額は1,220万円となります。
長期配偶者居住権を利用したケース
長期配偶者居住権を利用したケースでは、
一次相続で、妻が「長期配偶者居住権部分6,000万円」を相続し、子は「土地建物の所有権4,000万円」を相続します。
一次相続 1億円(自宅の相続税評価額)- 4,200万円(基礎控除)= 5,800万円
【 按分計算 】
5,800万円 ÷ 2人 = 2,900万円
2,900万円 × 15%(税率)- 50万円(控除額)= 385万円
385万円 × 2人分 = 770万円(相続税の総額)
【 妻の相続税額 】
770万円 × 6,000万円(長期配偶者居住権部分)÷ 1億円(相続財産総額)= 462万円
※配偶者控除により相続税はかからない
【 子の相続税額 】
770万円 × 4,000万円(土地建物の所有権)÷ 1億円(相続財産総額)= 308万円
二次相続 妻の死亡により「長期配偶者居住権」が消滅する。
配偶者居住権を利用すると、相続税額は308万円となります。
3.まとめ
今回は、2020年4月より改正される配偶者居住権についてご説明いたしました。
配偶者居住権は残された配偶者が安定した生活を送るために整備された権利ですが、相続税の計算に大きな影響を与えます。
ご興味をお持ちのお客様は、相続税専門の税理士をご紹介いたしますのでお気軽にご相談下さい。