借地権の不動産 | 誠和不動産販売株式会社
借地権の不動産
著:誠和不動産販売 2019年9月更新
周辺の物件と比べて明らかに安い価格の土地を見たことはないでしょうか。
土地に関する権利が『所有権』ではなく『借地権』である場合、周辺相場の6割から7割くらいの価格付けがされていることがあります。
借地権と聞くと、あまり良い印象を抱かれない方が多いでしょう。
土地所有についてある種の神話まで存在する我が国においては、“所有権≒優れる”“借地権≒劣る”という漠然とした感覚があっても仕方ないのかもしれません。
我が国の土地所有権のルーツは879年の『墾田永年私財法』に遡ると言われます。
その時初めて法律によって認められた個人による土地所有が、時代を経て荘園になり守護大名へ発展し、一旦は太閤検地・江戸幕府による天領(公地化)から幕末・明治にかけての大政奉還・版籍奉還による公地公民化によって個人所有権の概念は消滅します。
その後、明治5年の『田畑永代売買解禁』、明治6年の『地租改正』によって個人の土地所有が認められ、今日の所有権への道筋が出来ました。
この土地所有権の確立を以って自由な土地利用・取引が促進され、土地の所有権を維持したまま他人に賃貸することも盛んに行われるようになりました。他人の土地上に不動産(≒建物)を所有し経済的に利用すること、これが借地権と呼ばれるものです。
現代において借地権は、平成8年以前に借地権が設定された『旧法借地権』と、それ以後に施行された借地借家法による『普通借地権』の2つに分けられます。どちらの借地権も、他人の土地に建物を所有することを目的とした権利である点は同じものですが、主なところでは存続期間の違いがあります。
借地権は上述の通り建物所有を目的とした権利ですが、旧法借地権の場合は建物が老朽化し滅失したとしても借地権は消滅しません。再築を認めることが前提となっていて、借地人側の権利がより強く保護されていることが最大の特徴です。
また、地主側からの更新拒絶などは正当事由が必要となりますが、この正当事由は余程のことが無い限り認められません。
一方普通借地権は、旧法と比べて地主の権利が強くなり、地主の都合による解除についての規定も設けられました。
また、特に借地契約更新後の建物再築に関しては、地主の承諾なく行うと解除事由に該当してしまい借地権を失う可能性があります。
旧法賃借権も普通借地権も、契約を更新すれば半永久的に継続することが出来る点は同一ですが、旧法が借地人を強く保護することに重きを置いたものに対して、普通借地権はより柔軟な運用を目的として実態に即した改正がなされています。
借地権のメリット・デメリット
借地権は所有権の土地と比べてなぜ価格が安いのでしょうか。
当然ながら完全な所有権と比べて制限があるからなのですが、借地権のメリット・デメリットも見ていきたいと思います。
借地権のメリット
● 価格が安い
借地権は、所有権に対する権利割合として評価されます。
完全な所有権を10とすると、借地権(土地を利用する権利)は一般的な住宅街で6~7、駅前や繁華街などでは8~9です。
借地権はれっきとした財産であり、相続の対象にもなります。相続税算出の根拠として、国税庁が毎年発表する相続税路線価において上記の権利割合も明記されています。
この権利割合が価格にも反映されることになり、同じ相場の所有権の土地に対して借地権の土地は6~7割の価格付けがなされるのです。
● 固定資産税等の支払いが無い
借地権は土地の所有ではないため、固定資産税や都市計画税の支払いはありません。
その代わり地代の支払いがあるため、これはメリット・デメリットどちらにも当たります。
● 借地契約を更新すれば半永久的に借地を利用することが可能
借地権は旧法借地権にせよ普通借地権にせよ更新することで継続的に利用することが出来ます。土地所有者の側から借地契約を解除するには正当事由が必要となりますが、これは余程のことが無い限り認められません。
特に旧法借地権の場合は借地人がより強く保護されているため、借地権を失う可能性は低いと言えるでしょう。
借地権のデメリット
● 地代がかかる
借地権は毎月地代を支払う必要があります。相場は、地主によって、あるいは借地によって異なるため一概には言えませんが、借地権の慣行や杉並区の相場は概ね『公租公課(固定資産税・都市計画税)の3倍』がひとつの基準になるケースが多いようです。
(例)年間公租公課が10万円
10万円 × 3 = 30万円 × 6割(一般的な住宅街の借地権割合) ÷ 12ヶ月 ≒ 約15000円
● 建替え・譲渡に承諾を要する
借地権は建物所有を目的とするため、建物を建て替えるときは地主の承諾が必要となります。
木造平屋の建物に30年の借地権を設定していたのに、建て替えたら60年は住める鉄筋コンクリートの3階建てになったら地主は困ります。建物があれば借地権は存続するためです。そのため、建物を建て替えるとき、あるいは借地権の条件(建物種別)を変えるときは地主の承諾が必要となり、その際は承諾料を支払うこととなります。同様に、借地権を第三者に譲渡する際も地主の承諾と承諾料が必要となります。
● 購入するときに住宅ローンが使えるとは限らない
住宅ローンを使って建物を購入する時、銀行は建物と土地に抵当権を設定します。
所有権の土地であれば建物と土地は同じ所有者のため何の問題もありませんが、借地権の場合土地の所有者が異なるため土地に抵当権を設定することが出来ません。建物のみで住宅ローンの担保にする必要があるため、所有権の物件と比べると同じように住宅ローンが使えるかどうかは金融機関によって異なります。
また、借地上の建物に抵当権を設定する際にも地主の承諾を要します。仮に抵当権が実行されると、上記の譲渡と同じく借地人が変わることになるためです。金融機関は地主の承諾書(実印押印)と印鑑証明書を求めますが、地主が非協力的だとそもそも住宅ローンを使うことが出来なくなってしまいます。
如何でしたでしょうか。
借地権は所有権より劣るもの、良くないものといった感覚を抱く方もいらっしゃいますが、借地借家法によって借地人の権利が保護された土地利用の権利形態のひとつです。借地人に非がある(地代を支払わない・契約違反をする等)が無ければ土地利用は法律で保護され、所有権と比べて安価に土地を利用できるメリットもあります。
また、利便性の高い土地は地主がなかなか手放さないものですが、土地を利用する権利を所有権よりも安価に得ることが出来るなど、立地や利用目的によってはより良い選択肢ともなり得ます。
借地権と所有権、その背景を読み解いて仕組みがわかると光明が差すかもしれません。