国税庁は2017年7月3日、2017年(平成29年)分の路線価(1月1日時点)を公表しました。
2017年の路線価全体の傾向を見てみると標準宅地は前年比0.4%の上昇となっており、前年の0.2%の上昇からさらに伸び率が拡大しています。これでリーマンショック以来8年ぶりの上昇となった前年に続き、2年連続の路線価上昇となりました。
しかし、都道府県別の比較で見てみると、前年は14都道府県が上昇していましたが、今年は熊本地震の影響を受け熊本県が下落に転じたため13都道府県のみの上昇となっています。
一方、下落は前年の33県から32県と減少しているほか、うち26県では下げ幅が縮みました。
都道府県別所在地の最高路線価が上昇したのは前年の25都市に比べ、27都市と微増しました。下落したのは3都市(前年は5都市)、横ばいは16都市となっています。
この路線価上昇を下支えしているのが訪日外国人客の存在です。
日本政府観光局が2017年1日17日に発表した訪日外国人客数・訪日外国人両行消費額は過去最高を記録しており、政府の積極的な受け入れ策もあって今後も盛況が予想されています。このため都心部の再開発が進む東京のほか、訪日外国人客を呼び込む魅力を持った地域の路線価が上昇しています。
都道府県別の上昇率で1位となったのは宮城県の3.7%で、2位は東京都と沖縄県の3.2%が並び、4位に福島県と福岡県の1.9%が続いています。
以下、6位は京都府(1.4%)、7位は愛知県・大阪府・広島県(1.2%)、10位は北海道(0.9%)、11位は千葉県(0.5%)、12位は神奈川県(0.4%)、13位は埼玉県(0.3%)です。
上昇率で最高だった宮城県では、仙台市中心部などで商業施設・ホテルなどの開発ラッシュが進んでいるほか、郊外部でも大型物流施設の建設が相次ぎ、投資マネーが流入しています。仙台市は首都圏と比べると割安感があることが投資マネーを呼び込む原因とする声が多いです。
東京都も2位ながら3.2%の変動率で前年の2.9%よりも伸び率を伸ばしています。
しかし、東京都の不動産価格は一服感があるとの声もあり、この傾向がいつまで続くかは不透明感があります。
東京都と同率で2位だった沖縄県は、前年の1.7%から上昇率が大幅に伸びました。これで沖縄県は3年連続の上昇となっています。この理由としては、観光業を中心として好調な県内景気の動向があり、店舗・ホテルなどの事業用地需要の高まりがあります。
路線価が上昇した都道府県の多くは、訪日外国人観光客への訴求力を持っているのが特徴です。
2016年のホテル着工数が東京・大阪・名古屋の三大都市圏でバブル期以来の最高水準となっているのが、その証左ともいえます。
都道府県庁所在地の最高路線価順位で1位となったのはやはり東京都で、「日本一高い路線価」を32年維持している東京都中央区銀座5丁目銀座中央通り(「鳩居堂」前)が1平米あたり4,032万円となりました。
この路線価はバブル期だった1992年の過去最高額3,650万円を上回る結果となっています。
2位は大阪府の大阪市北区角田町御堂筋で1,176万円、3位は神奈川県の横浜市西区南幸1丁目横浜駅西口バスターミナル前通りの904万円です。
以下、4位は愛知県名古屋市中村区名駅1丁目名駅通り(880万円)、5位は福岡県福岡市中央区天神2丁目渡辺通り(630万円)、6位は京都府京都市左京区四条通寺町東入2丁目御旅町四条通(392万円)、7位は北海道札幌市中央区北5条西3丁目札幌停車場線通り、8位は兵庫県神戸市中央区三宮町1丁目三宮センター街、9位は埼玉県さいたま市大宮区桜木町2丁目大宮駅西口駅前ロータリー(299万円)、10位は広島県広島市中区胡町相生通り(256万円)となっています。
東京都銀座の「鳩居堂」前がバブル期の路線価を超えたのは、大型商業施設「GINZA SIX」のオープン・東急プラザ銀座などの再開発が進む銀座位全体の地価上昇があるとみられています。実際に、「三越銀座店」前や「GINZA PLACE」前の路線価も「鳩居堂」前と同額でした。
訪日外国人観光客が増加している大阪市でも全体として地価が上昇しました。今回も前年と同じく、大阪市北区角田町が「鳩居堂」前に続く2位となっています。
3位には前年の名古屋市を抜いて横浜市の西区南幸1丁目が入りました。前年比で15.7%の伸びとなっています。3位が交代した大きな理由として、名古屋市の名駅1丁目が前年比4.8%と伸び悩んだことがあげられるでしょう。
都市部では路線価の上昇が進む一方、地方では下げ幅が縮まっているとはいえ路線価の減少が続いています。ただし、地方の中核都市については都市部で路線価が上昇している影響を受け、改善傾向にあることも指摘したいところです。
現在は訪日外国人観光客の増加に加えて、人手不足で需要を伸ばす大型物流施設の増加が路線価の下支えをしていますが、2018年以降は東京都心部で進んできたオフィスビルの再開発が一段落します。
今後はその供給に見合う需要があるかどうかで、地価動向も大きく変化しそうです。
最後に蛇足ですが、杉並区の地価公示の推移を表にしてみました。
土地相場は比較的堅調に推移していますが、2020年の東京オリンピック以降は地価が上昇する材料が乏しく、土地の売却を検討している方は特に注意が必要かと思われます。