所有者が分からなくなっている土地を公共の目的に限って使えるようにする特別措置法が2018年6月6日参議院本会議で可決、成立しました。今回は、社会問題化している「所有者不明の土地」について記載いたします。
なぜ所有者不明の土地が増え続けているのか
民間有識者で作る所有者不明土地問題研究会が試算したところでは、持ち主をすぐに特定できない土地が、2016年時点で既に410万ヘクタールに上っています。これは九州全体の面積よりも広い計算になります。理由は、人口減少・高齢化の進展に伴い土地利用ニーズの低下や都市等への人口移動を背景とした土地の所有意識の希薄化等があげられています。今後、高齢化により相続機会が増加するなかで、所有者不明土地も増加の一途を辿ることが見込まれます。
所有者不明土地の問題点
所有者不明土地の問題が顕著に表面化したのは、東日本大震災の復興事業です。被災者の集団移転に伴う高台の用地を取得する際に、移転先に所有者不明の土地が含まれていたことで、計画の変更や遅延が余儀なくされたケースが現れました。
土地の所有者が分からないことで起こる問題は被災地だけではありません。
ある地域では土砂崩れが起こる可能性が高い土地の補強や堤防を設置しようとする際に、その土地の相続登記がされていないために工事が進められないケースが出てくるなど、人命に関わる様々な場面で影響が出ています。
【支障事例①】※国土交通省資料抜粋
【支障事例②】※国土交通省資料抜粋
法案の概要
【所有者不明土地を円滑に利用する仕組み】
① 公共事業における収容手続きの合理化・円滑化(所有権の取得)
国、都道府県知事が事業認可した事業について、収用手続きが簡略化されます。
※これまでは収用するまで31ヶ月程度かかっていたが特別措置法により21ヶ月で済むようになる見通し
② 地域福利増進事業の創設(利用権の設定)
都道府県知事が公益性などを確認し一定期間公告した上で市町村長の意見を聞き、利用権(最大10
年間)を与えると定められました。対象は建物が建っていない所有者不明の土地で、公園や直売所
などに使うことを想定しています。利用権を与えた後に土地の所有者が現れて明け渡しを求めた場
合は、権利が切れた段階で元の状態に戻して返さなければならないが、延長もできます。
【所有者不明土地を適切に管理する仕組み】
① 財産管理制度に係る民法の特例
所有者不明土地の適切な管理のために特に必要がある場合に、地方公共団体の長等が家庭裁判所に
対して財産管理人の選任等を請求可能にする制度が創設されます。
まとめ
今回の特措法は所有者不明土地問題対策の第1弾となり、来年の6月までに施行される見通しです。
政府は対策の第2弾として、2020年までに抜本的な改革として現在は任意となっている相続登記を義務化すること、所有者が土地所有権を放棄できる制度や所有者が見つからない場合、所有権が放棄されたと見なし、自治体が活用可能とする制度改正を検討していますが、憲法が保障する個人の財産権を侵害するおそれもあり、慎重な検討を求める意見も多いようです。