既に稀少では無くなった「相続人不存在」 | 誠和不動産販売株式会社
既に稀少では無くなった「相続人不存在」
著:誠和不動産販売 2019年10月更新
2015年の相続法改正によって、それまでは相続税が掛からなかった方も控除額が大幅に圧縮され課税対象となりました。
古くは資産の組み換え(現金から不動産)、あるいは生前贈与を用いて行われてきた相続税対策は、「信託」という新しい手法の登場によってより身近に、そして効果的に行えるように進化しています。
一方で、相続法改正の際も話題になりましたが、かつてと比べると相続を巡って骨肉の争いとなる事例も右肩上がりで増えています。裁判所が公表する司法統計に拠ると、遺産分割を巡る事例が1989年には年間8,430件だったものが、2016年には年間14,622件と大幅に増加していることが読み取れます。基礎控除が圧縮されることにより相続税の課税対象となる方が増えることで、相続係争事例は今後も増加の一途を辿ることは想像に難くありません。
「相続争いは金持ちのやること」は既に過去の話です。
そしてもうひとつ、過去の話では無くなったものが「相続人が誰もいないこと」、今回お話する相続人不存在です。
我が国の少子高齢化は叫ばれて久しい今日、総人口に占める高齢者(65歳以上)の割合は28%を超えています(2018年9月時点)。
平均年齢も男女ともに80歳を上回り、相続発生時には親が90歳、子は60歳を超えている「老老相続」、そんなケースも珍しくありません。また、生涯未婚率も上昇を続けており、配偶者がいない(=子がいない)ことは稀少とは言えなくなりました。
65歳を超えていて、何事もなく健康に後何十年も生きられる…いつ何が起きるかはわかりません。
不幸にして子が亡くなってしまい、そして配偶者が亡くなってしまい、いつの日か自分が亡くなるときに相続人がいなかったとき。
それが「相続人不存在」です。
相続人がいない状況は、生涯結婚せず子がおらず、兄弟姉妹もいない場合、あるいは法定相続人が先に亡くなっている場合に起き得ます。(相続人がいても相続放棄をした場合や相続欠格・廃除によっても起き得ますが、今回は割愛します。)
民法では法定相続人について以下のように規定しています。
常に相続人 配偶者(常に相続人となる)
第1位 子(子が亡くなっている場合は孫)
第2位 父母(親が亡くなっている場合は祖父母)
第3位 兄弟姉妹(亡くなっている場合はその子・孫)
家族構成を要因として相続人不存在になるケースは、次のすべての条件を満たす場合です。
●配偶者・子がいない
●兄弟姉妹がいない
●父母・祖父母も既に亡くなっている
配偶者・子・兄弟姉妹はもともといないだけでなく、先に亡くなっている場合も含まれます。
ただし、孫がいる場合や兄弟姉妹の子がいる場合には代襲相続人が存在することになり、相続人不存在には当たりません。
なお、相続人がいるにも関わらず『相続人不存在』については、別の機会に改めてお話出来ればと思います。
相続人不存在になると、その人の財産はどのように扱われるのでしょうか。
結論から述べると、相続人のいない財産は最終的には国庫に帰属します。法定相続人がいないことを確定させ、財産が国庫に納められるまでには次の手続きがあります。
①相続財産管理人の選定
法定相続人のいない人の財産とはいえ、誰かが勝手に処分することは出来ません。
相続財産管理人の選定は、利害関係者(被相続人にお金を貸していた人や、家を貸していた大家など)や検察官が家庭裁判所へ申立をします。また、遺言によって指定された遺産を受け取ることが出来る人(受贈者)も利害関係者に含まれます。
相続財産管理人が選定されると、官報によって2ヶ月間公告されます。この公告は相続財産管理人が選定されたことを報せるものであると同時に、1回目の相続人捜索をも兼ねます。
②債権者・受贈者への支払い
管理人選定の公告で相続人が現れない場合、相続財産管理人は2ヶ月以上の期間を定めて債権者・受贈者へ請求を申し出るよう官報で公告します。この公告は2回目の相続人捜索を兼ねます。
※この時点で遺産が無くなると手続きは終了です。
③相続人不存在の確定
2回の公告を経て尚相続人が現れない場合、6ヶ月以上の期間を定めて官報にて相続人捜索の公告を行います。この公告は3回目の相続人捜索であると同時に、相続人の不存在を確定させるものでもあります。
④特別縁故者への財産分与
相続人では無くとも、亡くなった人と同一生計にあった内縁の妻又は夫や、長年療養看護を努めた人は特別縁故者として財産分与を申し立てることが出来ます。
ただしこれは、申し立てをすれば必ず認められるものではなく、個別の事情に応じて家庭裁判所が判断します。
この申し出は、相続人不存在が確定してから3ヶ月以内にする必要があります。
⑤財産の国庫への帰属
相続人不存在が確定し財産分与の手続きも全て完了した後、残った財産は国庫に帰属することとなります。
相続が発生してから財産が国庫に帰属するまでには1年を超える期間がかかります。
相続人がいないということは、残した財産は全て国庫に帰属してしまうこととなります。
金銭や不動産が必要とする人、ところの為に使われるという意味で言えば無為なことではありません。
一方で、誰かに残したいと思ったとき、亡くなってからではその願いを叶えることは出来ません。
2018年に遺言書に係る民法・家事事件手続法が改正され、自筆証書遺言の作成・保管のハードルが緩和されたことは記憶に新しいことと思います。
少子高齢化によって『終活』という言葉も市民権を得てきました。遺言書の作成は相続時のトラブルを防ぐことにのみならず「財産を残す相手への最期のメッセージ」であり、それは相続人がいる・いないに関わらず誰もが行うことの出来る心配りでもあります。