貸家建付地と借家権割合 | 誠和不動産販売株式会社
貸家建付地と借家権割合
著:誠和不動産販売 2020年2月更新
相続と不動産は切っても切り離せないものです。
現金を不動産に換えて相続税の節税を図ることは最早常識に近い初歩的な手法となり、最近では土地所有者が遊休地に賃貸住宅を建築して賃貸事業+相続対策の両方取りを行うことも珍しくありません。
さて、不動産の所有や賃貸事業運用が何故相続対策になるのでしょうか。
御存知の通り、不動産を購入する時の【市場価格】と公的な相続税の算出根拠となる【財産評価額】には乖離があります。
非常にアバウトではありますが、相続税の財産評価額は市場価格に対して6割程になります。例えば1億円の不動産を購入すると、相続税算出の際には約6,000万円の財産と見做されることになり、およそ4,000万円分の節税効果を得ることが出来るということです。
ただ単純に不動産を所有することでも節税効果を得られますが、賃貸事業を行う場合にはより大きな節税効果に繋がる評価減制度があります。それが【貸家建付地評価と借家権割合】です。
貸家建付地とは?
土地の上に貸家があると、土地の使い勝手は非常に大きな制約を受けます。
※賃貸として運用されていれば、その貸家は戸建でも共同住宅でもどちらでも良い
我が国の不動産賃貸借においては、『借地借家法』によって借主の権利が強固に保護されています。
借主が余程悪質な人間でない限り、貸主からの賃貸借契約の解除は出来ません。
まったく制約のない土地に比べ貸主(≒所有者)の権利が制限される土地は、貸家を建て付けている土地として相続税の財産評価額を引き下げることが出来ます。
貸家が建てられている土地の評価額=更地の評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
借地権割合
所有権を100%とした場合、借地権(≒土地を借りて使う権利)がどれくらいの割合になるかを示すものです。
杉並区の住宅街では一般的に『60%』となっていますが、土地の利用価値が高くなるにつれて借地権の価値も上がる傾向にあります。街道沿いや駅周辺の商業地ともなると80%や90%の指定を見ることが出来ます。
借家権割合
建物の借主がその建物を使う権利のことを指し、国税庁が公示する財産評価基本通達によって全国一律『30%』と決められています。
賃貸割合
建物の延床面積のうち何%が賃貸事業に供されているかを示します。
貸戸建であれば基本的には100%ですが、賃貸併用住宅やアパート等の共同住宅で賃貸運用をしていない部分がある場合は、その部分が除外されます。
例) 延床面積180㎡の賃貸併用住宅で、自宅は100㎡、賃貸部分が80㎡の場合
→ 80㎡ ÷ 180㎡ ≒ 0.444444・・・約44.4%が賃貸割合
1億円の市場価格で購入した土地(相続税財産評価額約6,000万円)に賃貸専用共同住宅を建てるとどうなるでしょうか。
6,000万円(相続税財産評価額) × ( 1-0.6(借地権割合60%) × 0.3(借家権割合30%) × 100%(賃貸割合))
= 4,920万円(貸家建付地の財産評価額)
このように、非常に大きな財産評価額の圧縮へ繋がります。
また、貸家そのものも自己居住用の建物と比べて制約があることから、同様に評価減制度が設けられています。
貸家(建物)=建物の固定資産税評価額×(1-借家権割合(通常30%)×賃貸割合)
賃貸事業では建築費を金融機関からの借り入れによって調達します。
この借入金は相続税の財産評価においては『負債』としてマイナス評価になり、全体の財産評価を更に押し下げることで相続税の節税を狙うことが出来ます。
借入金は確かにマイナス評価ではありますが、賃貸事業の家賃収支がプラスになっていれば見かけ上のマイナスというだけですので、実際には懐が痛むことにはなりません。
まとめ
いずれ来たる大相続時代を先読みしたとき、賃料収入と相続税対策の両方取りを出来る賃貸事業は一見すると最良の選択肢にも見えます。
一方で『誰のため、何のための相続税対策か?』という視点は、ともすればおざなりにされがちです。
現金は綺麗に分割することが出来ますが、不動産はそうはいきません。建物をチェーンソーで半分に分けることは出来ないのです。
サブリースによる賃料保証を謳い賃貸住宅を乱立させて『◯◯銀座』と揶揄されたのは記憶に新しいところですが、長いスパンで考えたときに賃貸事業の見通しが立たない、あるいは継ぐ人がいない、いたとしてもそれぞれの意見が相反してしまうなどの事態に当たったとき、それは純粋な『負債』にもなりかねない危険を孕んでいると言えるでしょう。
特に超少子高齢化が叫ばれる現代社会においては、今は未だ何事も無いように見えたとしても、いずれ東京都においても賃貸事業が安泰でなくなる時代は、もう遠くない目の前にある現実です。
不動産に携わる立場として安易な賃貸事業へ傾注することなく、それぞれの所有者の方々とその未来を真剣に考えて最善の選択肢を提案することを、今までもこれからも忘れずにいたいものです。